安倍首相の突然の辞任

安倍首相は71日ぶりに官邸で記者会見を開いた。8月28日(金曜日)の夕刻のこと。 そこで首相が語ったのは「持病の悪化」と「政治判断を誤らないようにするための辞任」である。 確かにコロナ対策をはじめ政策は行き詰まり、世論の支持率も過去最低を記録していたのだから、ストレスが高じ持病の潰瘍性大腸炎が悪化したということは想像に難くない。 とはいえ、ごく最近まで本人は「新しい治療薬のお蔭で体調は問題ない」と周囲の不安感の払しょくに努め、辞任会見の6時間前の時点で菅官房長官も「お変わりない」と健康状態に太鼓判を押していた。 直前には慶応大学病院で2度の受診をしていたが、「定期健診」と説明し、その行き帰りの様子も特別具合が悪そうには見えなかった。 しかも、大叔父の佐藤栄作元首相の連続在職日数を超え、8月24日には「在任期間歴代最長」の称号まで手に入れたばかりである。首相の動静を伝える新聞報道を見ても、国会の開会には応じないが、近しい政治家、財界やマスコミ関係者とは頻繁に会食の機会を持っていたことが分かる。

安倍首相の公約

これまで、首相は公明党との連立を通じて政治基盤を安定させたことで、7年8カ月に及ぶ最高責任者の立場を維持していた。 その間、「戦後のアメリカによる押し付け憲法の改正、アベノミクスによる経済の復活、女性の活躍する社会の実現、北朝鮮による拉致問題の解決、ロシアとの間で北方領土問題を解決した上での平和条約の締結」等々に政治生命を賭けると繰り返し豪語してきたはずである。

安倍首相辞任の本当の理由

残念ながら、こうした大上段の公約はいずれも実現しなかった。 自民党の党則を変更し、連続3期9年に延長した総裁の任期がまだ1年残っている。 しかも、本心から「政治生命を賭ける」という気概や独自の戦略があるのであれば、「集大成として最後の1年に全てを投じ、結果を出す」というのが本来の最高指導者の取るべき姿であろう。 ところが、先の辞任記者会見でも「次の首相が決まるまでは責任を果たす。その後も1議員として新たな首相を支える」とのこと。 実におかしな発言だ。 なぜなら、「切羽詰まった状況にはない」ことを自ら明らかにしているのだから。 そうなると、今回の辞任劇には表向きの健康問題とは別の理由が隠されていると考えざるを得ない。

慰労の声、そして注目は総裁レースへ

しかし、与野党を問わず政治家もマスコミ関係者の多くも「職務が遂行できないほど体調が悪化したのでは致し方ない。しっかり休んで健康を取り戻してもらいたい」と慰労する声が大半である。 海外の指導者からもトランプ大統領を筆頭に「お疲れ様。尊敬に値する」と称賛のメッセージが相次いでいるらしい。 そして、今や「次の首相は誰か」といった自民党内の総裁レースに関心が一気に移ってしまった。 8年近い「安倍一強時代」の総括もないままだ。 これでは、目前のコロナ対策や国内経済の立て直しも、ましてや対外関係についても「ゼロからの再スタート」となってしまう。 実にもったいない話である。