米中対立の溝は深まるばかり

米中双方の領事館が閉鎖され、米中対立の溝は深まりばかりだ。 米国は7月24日までテキサス州ヒューストンにある中国領事館がスパイ行為や知的財産侵害の温床になっているとして、同領事館を閉鎖した。 中国も報復として、7月27日までに四川省成都にある米国領事館を閉鎖した。このまま米中対立は長期化し、世界は冷戦へと回帰してしまうのだろうか。

中国の覇権による平和“パクス・シニカ”

一方、昨今の世界情勢を捉え、筆者はパクス・シニカという言葉を思い出す。 パクス・シニカとは、簡単に言うと、中国の覇権によって東アジアに平和状態が訪れること、東アジア地域の平和・繁栄を中国が主導するということだ。 ローマ帝国の覇権による世界の平和“パクス・ロマーナ”、超大国米国の覇権による世界の平和“パックス・アメリカーナ”という言葉は有名だが、パクス・シニカは世界全体をカバーするものではなく、東アジア地域に限定される概念だ。 先月、第44回国連人権理事会で香港国家安全維持法が審議されたが、日本や西洋諸国を中心に27カ国が不支持に回った一方、中国を含む53カ国がそれに支持を表明した。 支持国の多くは一帯一路によって中国から多額の資金提供を受けている国や、中国と同じく反政府勢力の問題を抱えている国だが、完全に“親中、反米”というわけではない。 そして、債務帝国主義的な中国のやり方に対する反発や抵抗の声も、アジアやアフリカの発展途上国から聞こえてくる。中国による一帯一路構想は、時によって“反一帯一路”の反発や抵抗として返ってくるのである。パクス・シニカがパクス・ロマーナのようになることはない。

パクス・シニカ=中国国内+核心的利益+第1列島戦、第2列島戦

しかし、これが東アジア限定ということになると、話は違ってくる。 中国は、香港と台湾、新疆ウイグル自治区とチベット自治区、そして南シナ海と尖閣諸島を含む東シナ海を、絶対に譲ることのできない核心的利益に位置づける。 また、海洋覇権を進めるにあたり、九州から南西諸島、台湾へと通じるラインを第1列島戦、伊豆半島から小笠原諸島、グアムへと通じるラインを第2列島戦と位置づけるがこういった陸と海の広大な領域はパクス・シニカがカバーする領域とほぼ一致する。

米中対立の拡大版は“中国圏VS自由民主主義圏”

新型コロナ危機によって、今日では南シナ海や東シナ海、香港や中印国境などで、中国と米国、日本、インドやオーストラリアの対立がこれまでになく高まっている。 特に、これまでインドは中国との経済的繋がりから、米国が主導する対中包囲網構築に難色を示してきたが、最近の中印国境での衝突を背景に米国や日本に接近する姿勢を示している。 今後は、東アジアを含むインド・太平洋地域において、米中対立を中心に“中国圏VS自由民主主義圏”の対立構図が先鋭化する可能性がある。 中国としては、台湾独立を措置し、周辺海域での覇権を勝ち取り、パクス・シニカを達成したい狙いがあるが、米国や日本などがパクス・シニカ阻止に向けた外交・安全保障政策を徹底することになる。 そして、こういう構図においては韓国の選択が重要となる。 韓国は、前述の国家安全維持法の審議では棄権したが、その背景には中国との深い経済関係がある。仮に、今後韓国が中国寄りの姿勢を鮮明にすると、朝鮮半島を舞台とした米中危機がさらに高まる恐れがある。